柏 修平

柏 修平(かしわ・しゅうへい)

スタートアップ事業部

【プロフィール】

大学院修了後、製薬会社を経てシンクタンクへ。その時に携わったヘルスケア関連スタートアップのビジネスコンテストに、協力機関としてDTVSが入っていた。当時はスタートアップに特化した支援会社はまだまだ少なく「こんな面白いことに取り組んでいる人がいるのか」と圧倒的な存在感に惹かれて、門をたたいた。

【経歴】

高校時代、親族が重たくまともな治療法がない病気に罹患したのを契機に、「そのような病気の治療につながるような手法を開発したい」という思いから、サイエンス・テクノロジー領域への進路を決める。物理学や生物学など他の学問分野に関与している部分が大きく、いろいろなことに使われるという理由で、大学では化学を専攻した。大学時に、精神を病み、一般的な社会生活を送ることが難しくなってしまった人と出会い、フィジカルだけでなくメンタルの維持も重要だと痛感。ディープテックによる病対策の追求を課題として掲げ、大学院ではライフサイエンスを専攻する。

ディープテック(先端技術)領域のスタートアップ支援を重点課題に掲げていますね

「日本の勝ち筋となる存在であるからです」

日本のスタートアップが一般消費者向けのサービスを欧米で展開しようとしても、既に強力なプレーヤーが活躍しており、強者ほどさらに強者になっていく分野です。この分野では技術的にも秀でていないため世界制覇は難しく、残念ながら二番・三番煎じ的な存在として見られてしまいがちです。その点、ディープテックは消費者や国ごとのカルチャー、言語にあまり依存していないので、存在感を示すことができます。日本は資源がないため「科学技術立国」と言われ続けてきました。ただ、ポテンシャルはある一方で、科学技術の力を生かしきれていません。そのギャップを埋めたいと考え続けており、ディープテックスタートアップの成長こそが日本の勝ち筋だと思っています。

印象に残っている支援事例を教えてください

「アカデミア系スタートアップの創立者と対話し、起業にこぎつけたことです」

アカデミア系スタートアップの起業をサポートしたです。技術を開発した先生は商用化するかどうかで迷っていましたが、資金を投入すればもっと大きなサービスへと発展し、起業化しなかったら実現できないインパクトを世の中に与えられるのではないかと議論し、最終的に起業に至りました。それを踏まえ経営を任せられる人を引き合わせ、VC向けのピッチ資料を作成していただきました。ところが出てきたのは、100頁以上にも及ぶ膨大な資料。このような資料は、魅力を感じたVCに投資検討いただくための参考資料としては良いですが、ファーストタッチとしてVCに魅力を伝えるにはあまり適切ではありません。そのため私がヒアリングや助言を行いながら、ブラッシュアップを図りました。ディープテックは分かりにくいので、言語化するためにものすごい時間をかけてヒアリングを行いましたね。その結果、満足のいく資料が完成し、最高の条件を提示してくれたVCから資金調達することになりました。

ディープテック領域でのコンサルタントの介在価値は何でしょう

「何でも解決するという思考から脱却し、経済的な価値を生み出すことです」

ディープテックの中でも例えばライフサイエンス系のスタートアップは、技術のプラットフォームを提供する会社と新薬の候補品となるパイプラインを製造する会社に大別されます。パイプライン系は、良いものを作りさえすれば製薬会社から権利取得や買収がなされ、とても大きな売り上げが立ちます。これに対し技術プラットフォームは、一回使用するとそれで終わりという傾向が強い。大きく飛躍しないので、VCは敬遠しがちです。しかし、この領域で成功を収めているスタートアップもわずかに存在します。製薬会社が継続的に利用するような仕組みを構築しているのですよね。それを徹底的に研究し、試薬や備品の提供だけに終わらせず、長期的に価値を感じてもらえるスキームを一緒に考えました。ディープテック系の創業者は、当社の技術は唯一無二で、何でも解決するといった思考に陥りがちです。しかしユーザーは、その技術が具体的にどういった課題を解決するのか、その技術がベストなのかが分からなければ、購入しません。経済的な価値に変えるロジックを作り、もうかるジネスを創出することが、コンサルタントの介在価値だと認識しています。

事業化を支援する上では何を大事にしていますか

「ビジネスやマネタイズモデルはいったん忘れ、本質的なサービスを追求することです」

「ここから攻める」というキラーアプリケーションを探すことです。確かにマッチングは難しい作業ですが、まずは対象技術に最も適している領域を諦めずに考え続け、次にそこに対して持続可能なビジネスモデルを提供するのが重要なことです。例えばライフサイエンス系のスタートアップによる製薬会社向けアプリケーションでは、研究開発の失敗確率を引き下げるために、薬が病原にたどり着くまでのメカニズムを明らかにし、本当にその薬がその病気に効くのか明確化するアプリケーションを適用することに注力しました。これはディープテックに限った話ではありませんが、新しいビジネスを立ち上げる上で最初に考えなければならないのは、価値の部分です。ビジネスやマネタイズモデルはいったん忘れて本質的なサービスを追求していけば、フィーを頂けます。

そうした支援モデルを推進していく上で重要なことは何でしょう

「全て一人で対応するのではなく、役割分担を行うことです」

DTVSのメンバーは起業家に伴走できる力があります。ですが、必要なときは必要な専門家を引っ張ってくる。そういった力が重要だと思っています。全て一人で対応するのではなく、役割分担を行った上で支援を進めた方が価値が出やすいし、短期間で成果が出るかもしれません。個人の力と仲間の力・ネットワークを活用できる。それこそが「イノベーションのインフラ」を自負するDTVSという組織の強みだと思います。

これから、どういった組織へと成長させたいと考えていますか

「DTVSを頼ればいろいろな人が助けてくれ、ユニコーンも目指せる仕組みを作りたい」

DTVSは設立した時から、「インキュベーション×プラットフォーム」を提供する組織体であることを一貫して主張しています。インキュベーションは事例創出で、プラットフォームは場づくり。この両輪は大事で、事例を作らなければ次を目指そうという人は現れません。また、優良な場やコミュニティに囲まれているからこそできるという側面もあります。DTVSを頼ればいろいろな人が助けてくれるし、ユニコーンも目指せる。そんな仕組みを作っていきたいですね。